子宮頸がんは検診とワクチンで防げる!
今すぐ行動しよう!
金沢医科大学 産科婦人科教授 金沢大学医学部 客員教授 ● 笹川 寿之 先生
〇 HPV(ヒトパピローマウィルス)はどんなウイルスですか?
このウイルスは本来、皮膚 にできるいぼの原因として分離されました。1983・84年に、ドイツのzur Hausen博士たちは子宮頸癌組織からHPV16, 18型を分離しました。多くの研究成果により現在は13(14*)個の癌誘発型 HPVが分離されています。子宮頸癌の9割以上にこれらのHPVが感染しています。外陰部癌や陰茎癌の約半数、最近の研究では肛門癌や頭頚部(咽頭 )癌の半数以上がHPV感染が原因であるとされています。米国や英国では頭頚部癌は子宮頸癌より多くなっています。頭頚部癌は男性に多いため、先進国ではHPVワクチンの男性への接種 が始まっています。男性への接種 による集団予防効果によって女性へのHPV感染も防止できるメリットもあります。
〇 子宮頸がん を減らすために何が必要でしょうか?
最も確実な方法は、性交経験前の女性に HPV感染予防ワクチンを接種 することです。日本で実施されているのは2価、4価ワクチンで、これらのいずれにも HPV16, 18型という最も癌をつくりやすいタイプの HPV感染を予防します。日本を除く先進国では、17年まえからこれらのワクチンを10歳代女性に接種 し続けていて、子宮頸部前癌病変や子宮頸癌の発生が減少しています。このワクチンによる実際の効果は驚異的で、HPV16, 18型の感染による病気は100%、子宮頸癌全体で70%以上発生を防止できます。最近の報告では、16歳までに接種 した女性では90%近く癌の発生が減ったと報告されています。しかし17歳以上になって接種 した人での効果は半減することも判明しています。本ワクチンはHPV感染する前に接種 することが重要であることを示しています。2023年4月から日本でも9価HPVワクチンの定期 接種 化が認められました。実際の有効性をみるためには今後の結果を待つ必要がありますが、理論上16歳までに接種 すれば、88%子宮頸癌の発生が防止されます。
次に子宮頸癌検診です。HPVワクチンを接種 していても検診は必ず受ける必要があります。なぜなら、9価ワクチンでも12%の癌は予防できないことと、現在のところHPVワクチンの効果は20歳から40歳代までに発生する癌を防止できるというデータはありますが、それ以降に発生する頸癌まで予防できるという証拠はありません。子宮頸癌検診に関しては、細胞診による検診に限界はあるものの、2年毎の検診を65歳まで継続して受ければ安全とされています。最近、厚生労働省はHPV検査による1次(単独)検診の導入を検討しており、この検診の受診間隔は5年毎となり、これを導入することにより検診受診率が上がることと経費の削減が期待されます。このHPV検診で陽性であった場合には同時には、細胞診が実施され、ASCUS(グレーゾーン)以上の異常がでた場合に精密 (コルポスコピー)検査を受けることになります。一方、細胞診で陰性なら翌年に同じ検診を受けることになります。一部の産婦人科医の反対があり、実施はまだ先になりそうです。
〇 HPVワクチンの副作用(副反応)に関する正しい情報と接種 すべきかどうかを教てください
今も世界中の女子にこのワクチンは接種 されています。WHOは、日本で問題となった、体中の痛み、慢性疲労 、認知機能障害、起立性障害(起立すると動悸がひどくなる)など多様な症状はHPVワクチンによるものではなく、思春期の女性に特有の病気であると結論しています。その根拠として、フランスの大規模調査と日本で実施した二つの大規模疫学調査(祖父江班によるHPVワクチンの副反応とされた多様な症状についての全国施設調査と名古屋市が実施した24項目の多様な症状について一般女子に実施したアンケート調査)の結果を上げています。いずれにおいても、HPVワクチン接種 との因果関係は証明されなかったからです。
昨年4月にワシントンDCで行われた国際パピローマウイルス学会において、WHO、米国CDC、ベルギーとオーストラリアのワクチン専門家と日本のウイルス学者によるシンポジウムを開催し、HPVワクチンの安全性について議論しました。少なくとも、日本で報告されたような多彩な症状を副反応と認める国は皆無であり、欧米で本ワクチンの副反応と疑われた一型糖尿病やギランバレー症候群の発症との関係も否定されました。現時点では最も安全なワクチンの一つと結論されています。
しかし、HPVワクチンに副反応が全くないわけではありません。接種 直後の失神、翌日以降に発症する接種 部位の腫脹や疼痛、発熱、頭痛などの症状は副反応である可能性があります。しかし、早急に対応すれば大きな問題にはなりません。アレルギー体質や過去にワクチン接種 で問題があった、あるいは恐怖心が強い方は、専門医に相談されてから接種 されることをお勧めいたします。
政府はHPVワクチンの勧奨を再開しました。しかし、接種 率は平均5%程度(2023年度末)と低いままです。WHOが示す90%には程遠いレベルです。また、ワクチン接種 勧奨が中断されていた期間に接種 されなかった世代への接種 (キャッチアップ接種 *)を無料で行われていますが、その期限は今年度度いっぱい(2025年3月まで)です。その権利のある方は必ず受けることをお勧めします。3回の接種 を完結させるためには今年9月までの接種 開始が必要です。WHOが提唱するように子宮頸癌はHPVワクチン接種 と検診でほぼ撲滅可能な唯一の癌です。健康であるなら、このワクチンを受けない理由はありません。
*キャッチアップ接種 について: 平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日 が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性、または過去にHPVワクチンの接種 を合計3回受けていない女性: 接種 機関:令和4(2022)年4月~令和7(2025)年3月の3年間:詳細については厚生労働省のホームページ参照:HPVワクチンの接種 を逃した方へ~キャッチアップ接種 のご案内~|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
〇 国内での調査報告ではHPVワクチンによる副反応とされていた症状との因果関係は証明されなかったと聞きましたが、どういう事でしょうか?
厚生労働省はHPVワクチンの副反応問題が起こったあとに、約3000 例の副反応疑いがあり、重症は約1800人(1万人あたり約5人)と報告しています。しかし、その後に厚生労働省が主導して実施した祖父江班による調査や名古屋市が実施した調査で、日本で問題となった多様な症状に関してはワクチン接種 との因果関係が証明されませんでした。厚生労働省と日本産科婦人科学会はこれらの多様な症状について、画像検査や血液検査で身体症状に合致するような異常がなかったことから、これらを(機能性身体症状)と説明しています。
しかし、どのような名前を付けようが、筆者はHPVワクチン接種 によって誘発された症状は副反応である可能性を否定でないと考えます。そこで、ワクチンと副反応との因果関係を明らかにする場合の最初の前提は、接種 から症状発症までの期間であると考えました。そこで、これまで公開されている厚生労働省や祖父江班研究のデータを調査したところ、ワクチン副反応審議会報告や祖父江班の調査の結果から接種 後一か月以内に発生したものは19-28例であり、一年以内にしても39例でした。ちなみに、2022年から厚生労働省は、HPVワクチンによる副反応は接種 から4週間以内という規定を初めて提出しました。この結果から、この約 30 例についてはHPV ワクチンが原因ではないとはいいきれないが、これら以外の多くの報告は関与を否定できることになる。基礎的な事実としてこのワクチンの抗原であるHPV様粒子はL1蛋白のみで構成されており、発癌に関わる蛋白は含まれていない。一般にHPV感染は症状のない無症候性感染症とされ、このことは、ウイルスの外側の蛋白が人の免疫を刺激しないことを意味します。強い反応を起こすコロナウイルスのスパイク蛋白とは異なっています。したがって、日本で最初に副反応問題が起こったときから、筆者はこの多様な症状は理論上起こりえないと考えてきました。近畿大学微生物学の角田教授も別の観点からHPVによる免疫学的な組織損傷の可能性を否定しています。疫学のみならず、基礎医学の観点からも、本ワクチンがこのような多彩な症状を誘発し得ないことは明らかです。これは、ワクチン接種 時に偶然に発症した思春期に多い原因不明の疾患群(起立性頻脈症候群;POTSなど)の紛れ込みである可能性が高いと思われます。
〇 H P V ワクチンの、本当の副反応について教えてください
どのようなワクチンでも副反応はあります。HPV ワクチンのような不活化ワクチンでは副反応は通常接種 後数日から2週間以内に発生します。HPV ワクチンでは、接種 部位の腫脹や疼痛はやや強いです。全身症状として発熱、頭痛、筋肉痛などが報告されています。また、注射に対する恐怖心が強い方は、接種 直後に失神することもあります。接種 直後約30分間の安静と観察は重要と思われます。
笹川 寿之 先生 <プロフィール>
profile
阪府、府立豊中高校・金沢大学医学部・大阪大学医学部大学院卒
趣味 映画・絵画・音楽鑑賞(ジャズなど)/海釣り/自然農法による家庭菜園 子宮頸がん を考える市民の会元理事長/子宮頸がん を考える専門家会議委員/才細胞診学会専門医/国際ヒトパピローマウイルス学会評議員、2023年国際HPV学会長
現在はHPVワクチン接種 に関するセミナーを石川県下の大学で開始中。今後は中高等学校生やその父兄にも広げたいと考えている。検診の普及と円錐切除をしないで治すTCA療法、BCG-CWSがん免疫療法の開発