スペシャルインタビュー
子宮頸け いがんは検診とワクチンで防げる! 今すぐ行動しよう!
16号掲載(2026年発行)
金沢医科大学 産科婦人科教授 金沢大学医学部 客員教授 ●笹川 寿之
この記事は作成当時の情報に基づいていますが、最新の医療情報やガイドラインとは異なる場合があります。治療に関する重要な決定を行う際は、必ず専門医や医療機関にご相談ください。
愛は子宮を救う実行委員会
〇 HPVウイルスとはどんなウイルスですか?
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、皮ひ膚ふや粘膜に「いぼ」をつくるウイルスです。 1980年代に、子宮頸けいがんの組織から HPV16型・18型というウイルスが見つかり、これらが “がんを起こすウイルス” であることが分かりました。
現在までの研究で、13〜14種類の「高リスク型HPV」が子宮頸けいがん
の原因になることが確認されています。
HPVは子宮頸けいがんだけでなく
●
外陰がん・陰茎がんの約半数
● 肛門がんのほとんど
● 口やのど(
口腔・中咽頭)のがん(頭頚部がん)の半数以上
からも見つかっています。 最近の欧米では、HPVが原因と考えられる頭頚部がんが特に男性で増えており、女性の子宮頸がんより多くなっています。
このため、男性にもHPVワクチンを接種
する国が増えています。
男性がワクチンを受けることで、女性のHPV感染も減るという「集団免疫」効果も示されています。
■HPVに感染しても、ほとんどの人は症状がありません
HPVに感染しても、痛みやかゆみなどの症状はほとんど出ません。そのため、多くの人は感染に気づきません。 ところが、アメリカの女子大生を調べた研究では、性交渉を経験してから数年以内に半数以上がHPVに感染しましたが、その約9割は数年以内に消えていました。
つまり、感染したからといってむやみに恐れる必要はありません。 多くの場合、各自が有する免疫力によって自然にウイルスは排除されます。
■HPVは「免疫が反応しにくい」ウイルスです
インフルエンザやコロナウイルスは、感染するとすぐに発熱や咳などの症状が出ます。 これは、体の免疫がすぐに反応して炎症を起こすためです。 一方、HPVは免疫を刺激しにくいため、感染しても強い炎症が起こらず、症状も出ないのが特徴です。
ただし、性行為などで感染部位に小さな傷ができ、そこからウイルスの成分が外に出ると免疫を刺激して、おりものが少し増える程度の軽い症状が出ることもあります。
このように症状が弱いため、ウイルスを排除するまでに数カ月から数年かかると思われます。
〇 子宮頸がんを減らすために何が必要でしょうか?
子宮頸けいがんを減らすために最も確実な方法は HPV感染予防ワクチンを接せっ種しゅすることです。 これらのワクチンを接せっ種しゅすることで、30歳代までに発症する若年性子宮頸けいがんを効率的に(ほぼ9割減少した)予防できることが分かりました。 その一方で、17歳以上でこのワクチンを接せっし ゅ種した場合は予防効果が半減することも明らかになっています。 したがって、性行為を経験する前の接せっしゅ種が極めて重要です。 2023年4月からは、日本でも9価 HPVワクチンの定期接種 が始まりました。 今後データの蓄積を待つ必要はありますが、16歳までに接種 すれば、若年性子宮頸けいがんだけでなく、すべての子宮頸けいがんを約9割減らせるかもしれません。
WHOは、以下の3つを達成すれば、世界中から子宮頸がんを撲滅できると宣言しています。
● HPVワクチン接種
率:90%外陰がん・陰茎がんの約半数
● 子宮頸がん検診受診率:70%
● 前駆病変・初期がんの治療率:90%
以上
〇 HPVワクチンの副作用(副反応)に関する正しい情報と接種 (せっしゅ)すべきかどうかを教えてください。
現在、世界中の女子がHPVワクチンを接種
していますが、どの国でも重篤な副反応の問題は発生していません。
WHOは、日本で問題となった全身性疼痛など多様な症状について、以下のような既存の病態が“紛れ込んだ”ものであると結論づけています。
●
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
●
起立時の頻脈が特徴の起立性頻脈症候群(POTS)
●
慢性的な疲労を訴える慢性疲労症候群(CFS)
これらの病態の原因やその誘因はいまだ不明です。 これらの病態は、過去にも他のワクチンの接せっし種ゅ後にも問題視された歴史があります。 したがって、HPVワクチンを接せっし ゅ種した後にたまたま発生した心身症的疾患の可能性が高いと考えられています。 その根拠として、以下の研究結果が挙げられます。
- ● フランスでの大規模調査では、これらの病態とHPVワクチンの関連は否定
-
● 日本の2つの疫学研究
- ● 祖父江班による全国規模調査
- ● 名古屋市による24項目の多様な症状に関するアンケート調査→いずれもHPVワクチンとの因果関係は証明されず
- ● これまでのデータから欧米先進国で日本で報告されたような多様な症状を「副反応」と捉えている国は一つもありません。
■HPVワクチンに「まったく副反応がない」わけではありません
起こりうる副反応は以下のとおりです。
- ● 接種 直後の失神(心因性反応) → 接種 後に座って安静にすることで対応可能
- ● 接種 部位の腫れ・痛み
- ● 発熱・頭痛
接種 部位の反応は、ワクチンの効果を高めるために使用されているアジュバント(免疫活性化物質)によるものと考えられます。 これらの症状は通常、数日以内、長くても2週間以内に改善します。 症状が強い場合は鎮痛剤が有効です。
■日本の接種 率の現状と今後の懸念
大阪大学(現和歌山大学)・上田らの試算では、 2026年までに接種 率は約46%に達し、その後しばらく増えないと予測されています。
したがって、WHOが掲げる目標である接種 率90%には、当面到達しない可能性があります。 筆者が心配するのは、接種 が中断されていた期間に思春期を迎えた「未接種 世代」が将来受ける不利益です。 この世代では、約10年前のレベル、あるいはそれ以上の子宮頸がん発生が起こる可能性があります。 それを防止するためには、これら未接種 世代の女性の検診受診率を上げることと、子宮頸がん検診にHPV一次検診を実施すべきと考ます。
〇 HPV一次(単独)検診とは何ですか?
日本の子宮頸がん検診は、現在も主に細胞診が中心です。
しかし、この方法では3割ほどの見逃しが起こりうるとされており、欧米では細胞診からHPV検査を主体とした検診へ移行しつつあります。
日本でも厚生労働省が数年前からHPV検査による一次(単独)検診の導入を推奨しています。
しかし、その運用に関して婦人科医の間で十分な合意が得られていないのが現状です。
もし自治体で HPV 一次検診が導入されれば、
●
検診間隔は5年ごと
●
生涯に受ける検診回数が減る
●
自治体の検診コストを削減できる
●
5年間のうち好きな時期に受診できる仕組みが整えば受診率があがる
■HPV一次検診を成功させるには「運用アルゴリズムの徹底」が不可欠です
HPV 検査が陽性でも、必ずしも病気とは限りません。 そのため、陽性者に精密検査が必要かどうかを判断するトリアージ検査が必要になります。 日本ではこれが細胞診です。
トリアージの流れ(日本の現行案)
- ● HPV陽性 + 細胞診がASC-US 以上 → 精密検査(コルポスコピー)へ
- ● HPV陽性 + 細胞診が正常 → 1年後に再度HPV検査
- ● 翌年にHPV・細胞診ともに陰性 → 次回検診は5年後
- ● 細胞診のみ正常の場合 → さらに翌年も同じ検査を繰り返す
■世界で議論されている「より精度の高いトリアージ法」
現在、HPV一次検診における最適なトリアージ法について、先進国で活発な議論が行われています。
英国や日本が推奨する細胞診よりも、
●
p16 + Ki67検査
●
遺伝子メチル化検査
などの分子生物学的手法のほうが精度が高いとする報告が増えているためです。
この点について、ヨーロッパではすでに臨床研究が始まっています。
最近、実施した筆者らの研究で驚くべき結果が出ました。 HPV検診を想定した研究でHPV結果を検査士に知らせずに細胞診トリアージを実施した場合、これまでの細胞検診と同程度にしか異常は見つからないことがわかりました。 この結果は、日本で実施されている細胞診断法そのものに問題があることを示しています。 この点を補正しない限り、HPV単独検診のトリアージに細胞診を使うと細胞診単独検診より危険なことになります。 なぜなら、HPV検診では検診間隔が5年間にのびるからです。国や学会はこの点について早急に検討する必要があると考えます。
笹川 寿之 先生 <プロフィール>
profile
大阪府、府立豊中高校・金沢大学医学部・大阪大学医学部大学院卒
趣味 映画・絵画・音楽鑑賞(ジャズなど)/海釣り/自然農法による家庭菜園 子宮頸がん を考える市民の会元理事長/子宮頸がん を考える専門家会議委員/細胞診学会専門医/国際ヒトパピローマウイルス学会評議員、2023年国際HPV学会長
現在はHPVワクチン接種 に関するセミナーを石川県下の大学で開始中。今後は中高等学校生やその父兄にも広げたいと考えている。検診の普及と円錐切除をしないで治すTCA療法、BCG-CWSがん免疫療法の開発
