スペシャルインタビュー
子宮頸け いがんは検診とワクチンで防げる!今すぐ行動しよう!
15号掲載(2025年発行)
金沢医科大学 産科婦人科教授 金沢大学医学部 客員教授 ● 笹川 寿之
この記事は作成当時の情報に基づいていますが、最新の医療情報やガイドラインとは異なる場合があります。治療に関する重要な決定を行う際は、必ず専門医や医療機関にご相談ください。
愛は子宮を救う実行委員会
〇 HPV(ヒトパピローマウィルス)はどんなウイルスですか?
HPVは皮膚(ひふ)のいぼの原因となるウイルスです。 性器のいぼの原因HPV6型のウイルスDNAをもとにして、1983・84年に、ドイツのZur Hausen博士たちは子宮頸がん(けいがん)組織からHPV16・18型のウイルスDNAを分離しました。 これまでの研究から、13(14*)個のがんを誘発する高リスク型HPVが子宮頸がん(けいがん)組織から発見されています。 さらに外陰がんや陰茎(いんけい)がんの約半数、肛門(こうもん)がんのほとんど、頭頚部(とうけいぶ)(口腔(こうくう)・中咽頭(ちゅういんとう))がんの半数以上からこれらの高リスクHPV型がみつかっています。 最近の米国や英国では頭頚部(とうけいぶ)がんは子宮頸がん(けいがん)より多く発生しており、それはHPV感染の蔓延がその原因とされています。頭頚部(とうけいぶ)がんは男性に多いため、先進国ではHPVワクチンの男性への接種(せっしゅ)が始まっています。 男性へのHPVワクチンン接種(せっしゅ)による集団予防効果で女性のHPV感染率もさがると報じられています。
HPVは基本的に無症候性(むしょうこうせい)に感染します。 感染しても症状がないため本人は感染したことに気づきません。 米国の女子大生の調査から、性交渉(せいこうしょう)を経験して数年以内に半数以上にHPV感染がみつかりましたが、その女性の約9割で数年以内に自然にウイルスが消えました。 したがって、感染したからと言って性交渉(せいこうしょう)を避けたり、中止する必要はありません。 免疫誘導(めんえきゆうどう)メカニズムを考えると、これは当然の結果といえます。 無症候性(むしょうこうせい)感染するということは、そのウイルスは基本的に免疫に対する反応が弱いということです。 初期の免疫反応では、人の組織中に排出されたウイルス抗原に反応して炎症が誘導されます。 これを自然免疫と呼びます。 性行動により組織に傷ができ、壊れた細胞からHPV蛋白(抗原)が出ると考えられます。 自然免疫は、そのような異種抗原(いしゅこうげん)を貪食する細胞(樹状細胞(じゅじょうさいぼう)・マクロファージ)によって開始されます。 自然免疫はNK細胞の活性化を誘導します。 さらに、抗原特異的な抗体の産生、異種抗原(いしゅこうげん)を提示する細胞を攻撃するキラーTリンパ球を活性化する適応免疫の誘導にも重要です。 したがって、自然免疫は異物としてのウイルスを排除するきっかけをつくります。 自然免疫の本体は担当細胞から放出されるサイトカインや・ケモカインなど炎症を誘発する物質です。 HPV感染は無症候性(むしょうこうせい)と言いましたが、全く炎症がないわけではなく、呼吸器感染するコロナウイルスやインフルエンザウイルスほど強い炎症反応がおこりにくいというだけです。 感染後数年で排除されるという事実から、反応が弱いため排除されるまで時間がかかるのだと思われます。 健常人では、腟ちつ内ないには様々な細菌が存在して常じょう在ざい細さい菌きん叢そうを形成していますが、細菌に対する免疫活性化はこの細さい菌きん叢そうを変化させます。 最近の研究では、この細さい菌きん叢そうの変化がうまく作用するとHPV感染は排除され、子宮頸けい部異常(子宮頸がん(けいがん)の前駆病変(ぜんくびょうへん))の治癒につながるとされています。 逆に悪い細さい菌きん叢そうになるとがん化を促進する可能性があるようです。 我々も、ごく最近、このことをJ. Applied Microbiology に報告しています。 したがって、HPV感染後に性行動を中止すると、HPVの無症候性(むしょうこうせい)感染状態が長期化して、細胞はがん化する機会を得ることになるかもしれません。
〇 子宮頸がんを減らすために何が必要でしょうか?
これまでの結果から明らかになったことは、子宮頸けいがんを減らすために最も確実な方法がHPV感染予防ワクチンだということです。 これまで世界中で実施されてきた2価、4価ワクチンはHPV16・18型という、最も早期にがんを発生させるこれらのHPV型の感染を100% 予防できるものです。 約18年前からこれらのワクチンを思春期の女性に接種(せっしゅ)し続けてきた欧米では、子宮頸けいがんの前駆病変(ぜんくびょうへん)や子宮頸けいがんそのものの発生は9割近く減少しています。 これは、これまでの常識を変えるインパクトのある結果です。 これらのワクチンを接種(せっしゅ)するだけで、30歳代までに発症する若年齢発症の子宮頸けいがんを効率的に予防できることが判明しました。 ところが、17歳以上でワクチン接種(せっしゅ)された人では予防効果は半減することもわかっています。 したがって、本ワクチンは性行為を経験する前に接種(せっしゅ)することが重要です。 我々が、昨年報告した日本人の調査でも、接種(せっしゅ)者にHPV16・18型型の感染はほぼ皆無であり、これらが誘発する前駆病変(ぜんくびょうへん)(CIN2・3)の発生も全くありませんでした(論文 準備中)。 2023年4月から日本でも9価HPV ワクチンの定期接種(せっしゅ)が始まりました。 実際の効果について今後の結果を待つ必要がありますが、このワクチンを16歳までに接種(せっしゅ)すれば、若年齢発症性頸けいがんのみならず、すべての頸けいがん中9割近くの発生が防止できるかもしれません。 WHOは、全女性のHPV ワクチン接せっ種しゅ率を9割、検診受診率を7割、前ぜん駆く病変(ぜんくびょうへん)や初期がん治療を9割以上に実施すれば、世界中から子宮頸けいがんは撲ぼく滅めつできると宣言しています。 約10年前に日本では、約7割の女子にHPV ワクチンが接種(せっしゅ)されました。 その効果は先ほどの述べたとおりです。このことは、日本でも少なくとも7割以上の人がHPVワクチン接種(せっしゅ)を受ける必要があるということです。 当然、ワクチン接種(せっしゅ)のみで子宮頸けいがんを撲ぼく滅めつさせることはできないため、子宮頸けいがん検診はやはり必要となります。
〇 HPVワクチンの副作用(副反応)に関する正しい情報と接種(せっしゅ)すべきかどうかを教えてください。
今や世界中の女子がこのワクチンを接せっし種ゅしていますが、どの国においても重症の副反応問題は起きていません。WHOは日本で問題となった全ぜん身しん性せい疼とう痛つうは複合性局所疼とうつう痛症候群(CRPS)、起立時 に起こる頻ひん脈みゃくが特徴の起立性頻脈症候群(POTS)、慢性的に疲労感を訴える慢まんせいひろう性疲労症候群などの紛れ込みであろうと結論しています。実は、これまで他のワクチン接種(せっしゅ)後にもこれらの病態が問題となった歴史があります。 これらの病態そのものが不明のため、これらはHPV ワクチンによるものではなく、思春期女性に特有の心身症的な疾患であろうと考えられています。 その根拠として、フランスでの大規模調査でこれらに病態との関係が否定されたこと、日本で実施された二つの疫学研究(祖そ父ふ江え班はんによるHPVワクチンの副反応に関する全国規模の調査と 名古屋市で実施された24項目の多様な症状についてアンケート調査)の結果でも、HPVワクチン接種(せっしゅ)との因果関係は証明されなかったことを上げています。 筆者は、2023年の4月にワシントンDCで行われた国際パピローマウイルス学会において、WHO、米国CDC、ベルギーとオーストラリアのワクチン専門家と日本のウイルス学者によるシンポジウムを企画しました。 HPVワクチンの副反応について議論しました。 その結果、日本で報告されたような多様な症状を副反応と捉える国は皆無であり、欧米で本ワクチンの副反応と疑われたのは、一型糖尿病とギランバレー症候群のみでした。 しかし、過去の論文のメタ解析によりこれらの因果関係も否定されました。 現在、世界中の認識としてHPV ワクチンは最も安全なワクチンに分類されています。
しかし、HPVワクチンに副反応が全くないわけではありません。 接種(せっしゅ)直後の失神、翌日以降に発症する接種(せっしゅ)部位の腫脹や疼とう痛つう、発熱、頭痛などは副反応として起こる可能性があります。 接種(せっしゅ)時の失神は心因性反応であり、接種(せっしゅ)後に安静に保つことで対応可能です。 接種(せっしゅ)部位の局所反応はHPVワクチンの効果を上げるために用いた免疫活性化物質(アジュバント)が原因と考えられ、その発症は接種(せっしゅ)後数日以内、長くても2週間以内に治まります。 症状が強い場合には鎮ちん痛つう剤ざいなどが有効です。
政府がHPVワクチンの勧かん奨しょうを再開して以降、2023年度の接種(せっしゅ) 率は5%程度、2024年秋から急に接種(せっしゅ)率が上がったようです。 大阪大学、上田らによる試算では、2026年までに46%ぐらいまで接せっ種しゅ率は上がり、それがしばらく続くと予測されています。 日本ではWHO の目標である接種(せっしゅ)率9割には、当分は達成できないかもしれません。 しかし、筆者が最も危き惧ぐしていることは、HPV ワクチンの接種(せっしゅ)が一時中断していたワクチン未接種(せっしゅ)世代の女性が将来、ワクチンを受けなかったがために受ける不利益のことです。 彼女たちには、約10年前のレベル、あるいはそれ以上に多くの子宮頸けいがんが発生する可能性があります。彼女たちに対して、早急にHPV検診を実施すべきと筆者は考えます。
〇 HPV一次(単独)検診とは何ですか?
日本の子宮頸がん(けいがん)検診はいまだに細胞診が主体です。 この方法による見逃しが多数報告されたため、欧米では細胞診による検診からHPV 検査による検診に移行しつつあります。 その傾向はヨーロッパで顕著ですが、最近は米国にも波及しています。 日本の厚生労働省も数年前から、HPV検査による一次(単独)検診の導入を勧めていますが、その運用に関して、いまだに婦人科医間で十分な合意がなされていない現状があります。 もし、各自治体でこの方法が実施されれば、検診の間隔は5年毎となり、女性は生涯に受ける検診数が減るメリットがあります。 しかも自治体は検診にかかる経費の削減ができます。 もし5年間のうちいつでも受けられるシステムを構築すれば、実質的に検診受診率も上がると予想されます。 ところが、このHPV 一次検診を成功させるためには、その運用法(アルゴリズム)を徹底する必要があります。 HPV 検査陽性の患者が必ずしも病気とはかぎらないため、HPV 陽性者には精密検査を受けさせるかどうかを決める(トリアージ)検査が必要です。 日本の場合それは細胞診です。 方法は、HPV 陽性で細胞診がグレーゾーン(ASC-US)以上の異常が見つかった場合は精密検査(コルポスコピー)となりますが、HPV 検査が陽性でも細胞診が正常なら、1年後に再度HPV 検診を受けることになります。 翌年に両方が陰性なら5年後の検診になりますが、細胞診のみ正常なら、さらに翌年に同様の検診を繰り返す必要があります。 一見、複雑なシステムのように思われるため反対する産婦人科医も多いようです。 しかし、実はこれまでの細胞診による検診でもASC-US が出た場合にはHPV 検査をする必要がありました。 この方式をベセスダシステムと呼びます。 ところが、検診出生:大阪市、学歴:府立豊中高校・金沢大学医学部・大阪大学医学部大学院役職:子宮頸けいがんを考える市民の会元理事長・日本臨床細胞診学会専門医・国際ヒトパピローマウイルス学会元評議員、子宮卵巣温存療法研究会理事長社会活動:HPV ワクチン接せっ種しゅとHPV 一次検診の導入の啓発活動、手術しないで治すCIN2/3 に対するTCA 療法、BCG-CWS がん免疫療法の普及活動趣味:映画・絵画・音楽鑑賞(ジャズなど)・海釣り・自然農法による家庭菜園profile笹ささ川がわ寿とし之ゆきを担当する地方自治体にHPV 検査を実施する義務はなく、それは地域の産婦人科医院で実施されることになっていました。 すなわち、グレーゾーンであった女性は、HPV 検査を受けるため自分で産婦人科医を受診する必要があります。 ところが、自治体は細胞診を実施するだけでその後のHPV 検査をしたかどうかを把握していなかった可能性があります。 したがって、これまでの日本の多くの自治体検診でグレーゾーンを見つけても、トリアージ検査が実施されていなかったかもしれません。 約15年前からベセスダシステムを採用してきた石川県金沢市では、その開始10年後ぐらいから急に子宮頸けいがんの発生率が低下し、全国で4番目に低いレベルに達しました。 この結果は多くの地域でこの方法が実践されてこなかった傍ぼう証しょうになるかもしれません。
現在主流になりつつあるHPV 一次検診における最適なトリアージ法に関して、先進国でさかんに議論されています。 英国や日本が推奨する細胞診よりもp16+Ki67検査や遺伝子メチル化検出法など分子生物学的方法のほうが精度が高いとする報告がでてきたからです。 現在、ヨーロッパでこの点に関する臨床研究が始まっています。
笹川 寿之 先生 <プロフィール>
profile
大阪府、府立豊中高校・金沢大学医学部・大阪大学医学部大学院卒
趣味 映画・絵画・音楽鑑賞(ジャズなど)/海釣り/自然農法による家庭菜園 子宮頸がん を考える市民の会元理事長/子宮頸がん を考える専門家会議委員/細胞診学会専門医/国際ヒトパピローマウイルス学会評議員、2023年国際HPV学会長
現在はHPVワクチン接種 に関するセミナーを石川県下の大学で開始中。今後は中高等学校生やその父兄にも広げたいと考えている。検診の普及と円錐切除をしないで治すTCA療法、BCG-CWSがん免疫療法の開発
